内館牧子「すぐ死ぬんだから」にある自然体な生き方
「自然体」っていう言い方、ありますよね。
私も好きな言葉なんですけど、それが「外見なんて気にするな」とか「人は中身が大切だから」となると、ちょっと違うような気がするんです。
極端に言うと、そこにはまるで人間であることを放棄しているような響きがあるというか、外見を良く見せることは悪であると言われているというか。
でもこれまでは、何となくそう思っているだけで、ではどうすればいいのかとなると、はっきりは分かりませんでした。
そこで出会ったのが「すぐ死ぬんだから」です。
内館牧子さんのこの小説には、実年齢より若く見られることにこだわる78歳の女性「ハナ」が登場します。
彼女は「六十代に入ったら男も女も絶対に実年齢に見られてはならない」という頑な価値観を持っていて、同窓会でも羨望と嫉妬の的になるほど見た目の若さを誇っています。
物語の中で彼女は思いもよらぬ試練に襲われますが、それでも凛として運命に抗っていく姿にとても共感させられました。
人にとって最も大切なものは何でしょうか。
もちろん「やさしさ」とか「生きがい」など色々な答えはありますが、その中のひとつは「誇り」だと思うんです。
「すぐ死ぬんだから」と言いながら自分が老いていくことにまったく抵抗しないのであれば、もしかしたらその人は誇りを捨ててしまったのかも知れません。
自然体であることと誇りを捨てることはまったく違うんだ。
運命や社会という強いものにただ流されるのではなく、自分としての生き方をつらぬくのが本当の自然体なのではないか。
この小説を読んでいると、そんなことが理屈でなく実感として身体の中に入ってくるような気がします。